このページでは、一般送配電事業者について解説しています。
一般送配電事業者という言葉は、聞きなれない方が多いかもしれませんが、すべての方にとって身近で活躍している企業です。
一般送配電事業者とは
一般送配電事業者とは、日本国内で供給される電力を「送配電」している会社を指します。
つまり各地で発電された電気を皆さんのお宅や企業など各供給地点まで届ける役割を担っているのです。
普段目にする電線(送電線)や電柱などは、一般送配電事業者が設置・管理しています。
皆さんが電気を使用する上でとても大切な役割を果たしており、なくてはならない企業なのです。
一般送配電事業者一覧
現在日本国内の電力は、10の供給区域に分けられています。
それぞれの地域において管轄する一般送配電事業者が定められており、電気を届ける大事な役割を果たしています。
送配電は、すべての国民生活に大きくかかわる事業であるため、例外を除き独占が認められています。
それぞれの地域で定められた一般送配電事業者は、管轄区域内において独占することが許されているので、同業他社とシェアを奪い合うことはありません。
電気は、人々が社会生活を営む上でもっとも重要なインフラと言っても過言ではありません。大きな役割を担う一般送配電事業者は、行政によって厳しく事業内容を管理されているのです。
発送電分離(法的分離)
一般送配電事業者は、小売電気事業、発電事業(小売電気事業の用に供するための電気を発電するものに限る。第百十七条の二第四号において同じ。)又は特定卸供給事業(小売電気事業の用に供するための電気を供給するものに限る。同号において同じ。)を営んではならない。
電気事業法 第二十二条二項
かつては、発電する事業者が送配電も並行していました。
例えば東京電力管内であれば、東京電力本体が発電をはじめ、送配電や小売りも行っていたのです。
そして2013年の決議で「2020年に電力会社から送配電部門を切り離す発送電分離を実施する」ことが了承されるに至ります。
2020年には、改正電気事業法が施行され、例外を除き「一般送配電事業者は小売電気事業や発電事業を営んではならない」と法律により分離することが定められました。
沖縄電力が例外
改正前の2016年には、東京電力の送配電部門が東京電力パワーグリッドへと移管されるなど、各地域の電力会社が送配電専門の会社をつくっています。
東京電力の例では、持ち株会社として東京電力ホールディングスがあり、小売事業者として東京電力エナジーパートナー、送配電を担う東京電力パワーグリッドという形で役割に応じて別々の企業がつくられています。
参照:一般送配電事業者の法的分離の例外
一般送配電事業者の規模
供給区域の面積(㎢) | 送電線亘長(㎞) | 変電所数 | 配電線亘長(㎞) | 電力販売量(千kWh) | 発電実績(千kWh) | |
---|---|---|---|---|---|---|
北海道電力ネットワーク | 78,421 | 8,463 | 403 | 68,350 | 78,601 | 5,071 |
東北電力ネットワーク | 79,531 | 15,362 | 634 | 148,735 | 89,444 | 19,216 |
東京電力パワーグリッド | 39,575 | 21,365 | 1,615 | 363,874 | 784,771 | 12,326 |
中部電力パワーグリッド | 39,272 | 12,004 | 1,012 | 135,358 | 224,115 | 0 |
北陸電力送配電 | 12,272 | 3,359 | 261 | 43,653 | 21,840 | 36 |
関西電力送配電 | 28,712 | 18,851 | 1,647 | 132,880 | 83,023 | 0 |
中国電力ネットワーク | 32,282 | 8,711 | 546 | 84,306 | 135,676 | 10,457 |
四国電力送配電 | 18,451 | 3,384 | 241 | 46,184 | 4,823 | 0 |
九州電力送配電 | 42,232 | 10,990 | 651 | 173,200 | 182,590 | 66,786 |
沖縄電力 | 2,281 | 1,234 | 134 | 11,135 | 469,697 | 325,654 |
2021年3月末時点 | 2021年3月末時点 | 2021年3月末時点 | 2023年2月実績 | 2023年2月実績 |
送配電事業は、小売と同じく需要家数に比例して企業規模も大きくなっています。東京電力パワーグリッドや関西電力送配電が多くの人々の生活を支えています。
電気の販売量や発電量に関しては、発送電分離されているので、この数字が企業規模を示すものではありません。
例外的に一般送配電事業者が最終保障供給を行うことがあるため、販売量の数値が0にはなりません。⇒最終保障供給について
沖縄電力に関しては、発送電分離の例外が認められていることから、発電量や販売量に関しても高い数値となっています。
一般送配電事業者の役割
電気事業法には、一般送配電事業について以下のように定められています。
自らが維持し、及び運用する送電用及び配電用の電気工作物によりその供給区域において託送供給及び電力量調整供給を行う事業(発電事業に該当する部分を除く。)をいい、当該送電用及び配電用の電気工作物により次に掲げる小売供給を行う事業(発電事業に該当する部分を除く。)を含むものとする。
電気事業法 第一章第二条八項
つまり一般送配電事業とは、発電された電気を使用場所まで届けることを指しています。
具体的には、送配電線を設置して各供給地点を結ぶ、変電所において電圧を変更することが主な役割です。普段よく目にする電信柱や電線は、多くが一般送配電事業者の持ち物です。
送電
送電とは、各地の発電所でつくられた電気を変電所などへ送ることを指しています。
山中や広い野原などで大きな鉄塔と長い電線をご覧になったことがあるかと思います。
一般的に発電所は、都市部から離れた場所にあることから、あえて電圧を高くすることにより送電ロスを少なくするよう工夫されています。
また大きな鉄塔と長い電線を使用することで、効率よく電気を運べるようにしているのです。
配電
配電とは、変電所から一般家庭などの供給地点へ電気を供給することを指しています。
送電の段階では超高電圧であったものが、変電所や変圧器を経由することで100または200ボルトまで下げられて一般家庭へ供給されます。
変電所
変電所は、発電所でつくられた電気を各供給地点に効率よく届けるため変電(電圧を変えること)する場所です。
そのままでは電圧が高すぎて使用することができませんので、変電所を経由することにより徐々に下げているのです。
変電所は何種類かあり、「超高圧変電所」「一次変電所」「二次変電所」「配電用変電所」という形で数段階に分けて電圧を変えるよう工夫されています。
高圧電力・特別高圧の供給
高圧や特別高圧は、一般家庭よりも高い電圧で供給されます。
高圧電力は750ボルト以上7000ボルト以下。特別高圧は、7000ボルトを超える電圧を指します。
従って一般家庭のように配電用変電所や変圧器を経由するのではなく、一次変電所や二次変電所から直接工場やホテルなどの供給地点へ送られます。
一般送配電事業者の管轄区域
一般送配電事業者がどの区域を管轄するかどうかは、経済産業大臣から任命されることにより決められており、重複することはありません。
多くの場合には、わかりやすく都道府県単位で区分されていますが、同じ県内においても管轄する一般送配電事業者が異なることも少なくありません。
一般送配電事業者 | 管轄する都道府県 |
---|---|
北海道電力ネットワーク | 北海道 |
東北電力ネットワーク | 青森県・秋田県・山形県・岩手県・宮城県・福島県・新潟県 |
東京電力パワーグリッド | 茨城県・栃木県・群馬県・埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県・山梨県・静岡県の一部 |
中部電力パワーグリッド | 長野県・愛知県・岐阜県の一部・静岡県の一部・三重県の一部 |
北陸電力送配電 | 富山県・石川県・福井県の一部・岐阜県の一部 |
関西電力送配電 | 滋賀県・京都府・大阪府・奈良県・和歌山県・兵庫県の一部・岐阜県の一部・三重県の一部 |
中国電力ネットワーク | 鳥取県・島根県・岡山県・広島県・山口県・兵庫県の一部・香川県の一部・愛媛県の一部 |
四国電力送配電 | 徳島県・高知県・香川県の一部・愛媛県の一部 |
九州電力送配電 | 福岡県・佐賀県・長崎県・熊本県・大分県・宮崎県・鹿児島県 |
沖縄電力 | 沖縄県 |
電気を使用する場所へ電線をつなぐ一般送配電事業者は、その区域によって決められています。
もしも引越しなどで一般送配電事業者がわからない方は、各一般送配電事業者や不動産管理会社に問い合わせましょう。または上記の都道府県名をクリックすれば、詳しい区分けを記載しています。
一般送配電事業者は供給を断ってはいけない
一般送配電事業者は、正当な理由がなければ、その供給区域における託送供給(振替供給にあつては、小売電気事業、一般送配電事業、配電事業若しくは特定送配電事業の用に供するための電気又は第二条第一項第五号ロに掲げる接続供給に係る電気に係るものであつて、経済産業省令で定めるものに限る。次条第一項において同じ。)を拒んではならない。
2 一般送配電事業者は、その電力量調整供給を行うために過剰な供給能力を確保しなければならないこととなるおそれがあるときその他正当な理由がなければ、その供給区域における電力量調整供給を拒んではならない。
3 一般送配電事業者は、正当な理由がなければ、最終保障供給及び離島等供給を拒んではならない。
4 一般送配電事業者は、発電等用電気工作物を維持し、及び運用し、又は維持し、及び運用しようとする者から、当該発電等用電気工作物と当該一般送配電事業者が維持し、及び運用する電線路とを電気的に接続することを求められたときは、当該発電等用電気工作物が当該電線路の機能に電気的又は磁気的な障害を与えるおそれがあるときその他正当な理由がなければ、当該接続を拒んではならない。
電気事業法 第十七条より抜粋
一般送配電事業者は、独占的な事業展開が認められる見返りとして、様々な制約を受けています。
電気の供給は、社会生活を営む上でなくてはならないサービスです。余程の理由がない限り一般送配電事業者は、その場所へ電気を届ける義務を負っているのです。
ただし、例えば「富士山の山頂まで電線を引いてくれ」など、物理的に極めて困難など、正当な理由があれば断ることができます。
離島への電力供給
一般送配電事業者が供給義務を負っているのは、離島も含まれています。
離島で電柱や電線を設置して電気を供給するのは、会社として大きな利益を生む事業ではありません。使用する人口によっては、赤字になってしまう可能性もあるでしょう。
しかし電気の供給がなければ離島に住んでいる方は、生活に困ってしまいます。
離島の電気料金については、本土と比べるとやや高めになっていることがありますが、消費者にとって大きな不利益になるような極端な金額差にならないように設定されています。
最終保障契約
最終保障契約とは、一般送配電事業者が供給区域内(離島などを除く)において、電気の供給を保障するために用意する契約です。
高圧電力と特別高圧にのみ適用されるもので、低圧は対象外となっています。
電力の小売事業は、2016年に全面的に自由化されています。消費者としては、契約する電力会社を自由に変更できるようになりました。
⇒新電力の解説
そのような緊急時に、消費者を救済する措置として最終保障制度が設けられています。
一般送配電事業者は、正当な理由がなければ最終保障契約を拒むことができません。
託送供給
託送供給とは、接続供給と振替供給を総称したものを指しています。
振替供給とは、同じく一般送配電事業者が所有している送配電網を介して会社間連系点へ供給することをいいます。
新電力事業者は、自社で電線や電柱を所有していないので、一般送配電事業者の設備を借りなければ電気を供給することができません。
そのため託送供給契約を結び、自社で調達した電気を消費者の元まで、一般送配電事業者に届けてもらっているのです。この仕組みがなければ新電力事業は成り立ちません。
一般送配電事業者に関するQ&A
一般送配電事業者とは何ですか?
一般送配電事業者は、送電線や配電線などの送配電ネットワークを管理し、電気を消費者の使用場所まで送り届ける役割を担う企業です。
一般送配電事業者の主な役割は何ですか?
主な役割は、送配電網の管理・運用、電力の安定供給、電気の品質維持、緊急時の対応などです。つまり電線などの管理や停電時の対応を担っています。
日本には何社の一般送配電事業者がありますか?
日本全土は10の供給区域に分割されており、各区域に1社ずつ、計10社の一般送配電事業者が存在しています。
一般送配電事業者はどのように選ばれるのですか?
各供給区域で政府から一般送配電事業者としての認可を受けています。電力自由化後も、安定供給のため送配電事業者の役割は継続されています。
電力自由化後、一般送配電事業者はどのように変化しましたか?
電力自由化後、公平な競争環境を確保するため、送配電部門が各地域の電力会社から分離され、独立した一般送配電事業者になりました。(発送電分離)
一般送配電事業者の独立性・中立性はなぜ重要なのですか?
電力自由化で健全な競争を行うためには、地域の電力会社だけでなく、新規事業者も公平に送配電網を利用できる必要があるからです。例えば東京電力パワーグリッド(一般送配電事業者)が、同じグループの東京電力エナジーパートナー(小売電気事業者)を特別扱いすることがあってはなりません。
一般送配電事業者と小売電気事業者の関係は?
小売電気事業者は、送配電網の利用料金として「託送料金」を一般送配電事業者に支払い、発電所からお客様へ電気を送り届けてもらっています。
自分の地域の一般送配電事業者を知るにはどうすればいいですか?
お住まいの地域を管轄している一般送配電事業者は、このページに記載しています。⇒管轄区域一覧
この記事は、私が作成しました。
静岡県出身。エネルギー業界に10年以上携わり、特に都市ガスやプロパンガス、電力を専門にしています。またウェブサイトや記事も自身で作成します。ご意見や感想、指摘などありましたら、気軽にお寄せください。⇒著者情報