送電のしくみ

この記事では、送電(そうでん)のしくみについてわかりやすく解説しています。

「送電」は、普段は意識することが少ないかもしれませんが、皆さんの生活にとって重要な役割を果たしています。

送電とは

送電とは、広い意味では名前の通り「電気を送ること」です。一般家庭内など小規模な場所においても送電が行われているといえるでしょう。

電力事業における「送電」とは、発電所から変電所まで電気を送り届けることを指しています。

このページでは、こちらの送電について解説しています。

小売事業者が顧客へ電気を供給することを送電とも呼びますが、ここでは違う意味の送電を解説します。

送電は、大きく分けて2つの方法で行われます。

架空送電

架空送電の鉄塔
架空送電の鉄塔

架空送電は、「かくう」と「がくう」両方の呼び方が使用されます。

架空送電とは、主に鉄塔を使用して高い場所に電線を張って送電する方法を指しています。

「架空の人物」など実在しないことを指している架空ではありません。

超高圧の送電線
送電線は、発電所で作られたばかりの超高圧の電気が流れていますので、周りの建物や樹木などと触れ合うことを避けなければなりません。
当然ながら、簡単に人が登れるものであってもいけないのです。
もしも触れてしまったら火災や事故の原因になってしまいます。

「危険を避ける」「送電効率を上げる」ために、大きな鉄塔を立てて外部との距離を保っているのです。

送電鉄塔

山中や海の近くなど都会から離れた発電所で作られた電気は、長い距離を運ばなければなりません。

鉄塔を使って効率良く送電する
市街地を離れた場所での送電には、専用で立てられた鉄塔を使用することが一般的です。山の中や広い野原などで大きな鉄塔をご覧になったことがあるかと思います。
この鉄塔は、電気を運ぶために作られているのです。

大きな鉄塔は、広い間隔で設置されます。そのため送電で使用する電線「送電線」は、距離が長いことを特徴としています。

鉄塔は大きなもので150メートルにも及ぶものもあります。

鉄塔と架空送電の設備

鉄塔の構造
鉄塔の構造

鉄塔を良く見てみると、送電線だけではなく色々な設備が付けられています。

鉄塔の設備
  • 架空地線:架空送電線に雷が落ちないようにする、避雷針の役割を果たす。(もっとも高所の線)
  • がいし:架空送電線から鉄塔本体に電気が流れないようにする役割を果たす。電圧が大きいほどたくさんのがいしが必要となる。画像は、電線と並列で取り付ける「懸垂がいし」。他に縦に取り付ける「長幹がいし」や「SPがいし」などがある。
  • 架空送電線:送電に使用する電線。架空送電線は、がいしにより絶縁されているため、絶縁電線ではなく裸線が使用される。

鉄塔には、雷に対する備えや人が触ったりしても害がないように工夫が施されています。簡単には停電が起こらないようにしているのです。

架空送電のメリット・デメリット

架空送電は、下記の地中送電よりも安いコストで設置することができます。また大容量の電気を送ることができるのも、架空送電のメリットのひとつです。

一般的に「送電」というと鉄塔を思い浮かべることもあるでしょう。

通常の送電では、架空送電が採用されます。

架空送電のデメリット
一方で鉄塔の設置には、大きなスペースが必要になるなど、周りの環境によっては設置が難しい場所が多くあります。
設置する場所が限られてしまうのが架空送電のデメリットです。

また落雷のリスクや凧などの飛来物が引っかかる、台風や雪などによる被害など自然現象の被害を受けやすいことも架空送電の弱点です。

地中送電

地中送電のしくみ
地中送電のしくみ・中部電力HP

都市部では、配電線が使用されることが一般的です。しかし状況によっては、送電設備が必要になることもあります。

地下を通す地中送電
市街地で大きな鉄塔を立てるのは難しいため、地下に電力ケーブルと呼ばれる送電線を埋め込んで電気を運びます。
これを地中送電と呼んでいます。

地中送電では、電線を架橋ポリエチレンや油などを使用して絶縁した電力ケーブルを使用します。

  • 架橋ポリエチレンを使用した絶縁:CVケーブル
  • 油を使用した絶縁:OFケーブル

地中送電は、私たちが普段目にする機会はありませんが、市街地にある大型の施設に電気を送り届けているのです。

洞道と管路

地中送電で使用する電力ケーブルは、地下2~10mに設置される管路(かんろ)と呼ばれるパイプの中を通ります。

道路を掘ることが難しい所や、変電所の近くなど電力ケーブルが多く集まる場所では、洞道(とうどう)と呼ばれるトンネルをつくりその中にケーブルを通します。

洞道の内部は、直径が3~5mほどもあり、深い場所だと地下鉄のさらに下、地下100m以上に設置されていることもあります。

地中送電のメリット・デメリット

地中送電は、地上に設置する架空送電とは異なり、台風などの自然災害の影響を受けないというメリットがあります。

外的要因による影響を受けるリスクが低いといえるでしょう。

地中送電のデメリット
一方で設置するためには、地下深く穴を掘る必要があるほか、内部には照明・換気・排水設備などを設置し、定期的に送電線の点検をおこなっています。
架空送電よりも必要な費用が高いというデメリットがあります。

また地中送電は、送電容量が少ないという弱点もあります。従って架空送電が難しい場合に地中送電が採用されることが一般的です。

送電ロス

発電所の多くは、都市部から離れた場所に位置しています。

「水力発電所は、山の中にあるダム」「原子力発電所や火力発電所は海の近く」というイメージです。

発電所で作られた電気は、数十万ボルトにものぼる超高圧になっています。

送電ロスとは
電気は、送電や配電の途中で熱となって逃げてしまいます。
これを送電ロスと呼びます。
送電ロスは、電圧が高いほど少なくなります。そのため送電では、あえて電圧を高くして逃げる電気の量を少なくしているのです。

超高圧で作られた電力は、送電線や変電所を経由して徐々に電圧が下げられ、配電網に送り届けられます。

送電と配電

送電設備で運ばれた電気は、変電所までたどり着きます。そして配電網を通じて家庭などの供給地点へ送り届けられるのです。

配電とは、変電所から供給場所まで電気を届ける(配る)ことを意味しています。

街中で見かける電柱や電線は、配電のための設備です。架空送電では高い鉄塔と長い電線を使用するのに対し、配電は主に電柱や短い電線が使用されます。

送電事業は独占

一般送配電事業者

電力の小売事業は、2016年に全面自由化され新電力が参入できるようになりました。⇒新電力の解説

送電事業は1社独占
一方で送電事業に関しては、今も自由化されていません。送電事業を行うことを許されているのは、各地域において一社のみです。これは配電も同様です。

送電や配電を担う会社のことを「一般送配電事業者」と呼んでいます。

一般送配電事業者は、日本全国で10社のみ。限られた会社にしか、送配電を行うことが許されていないのです。⇒一般送配電事業者の解説

送配電事業を自由化しない理由

もしも送配電事業を自由化したら、様々な電力会社の鉄塔や電信柱、電線が至る所に設置されることになるでしょう。

仮に送配電事業が独占ではなかったら
「この電線は当社のもの、あちらは他社のもの」「あの鉄塔でトラブルが起こっているけど、どこに連絡すれば良いかわからない」という事態になってしまうでしょう。
停電時の対応なども含めて、このような状況はよろしくありません。

独占であれば、例えば東京都の電線で異常があったら「東京電力(パワーグリッド)が担当」とすぐにわかるのです。停電などのトラブルに対する対策も大切です。

人々の生活を守る大切な役割を果たす送配電事業は、独占が許されています。今後も自由化されることはないでしょう。

発送電分離

発送電分離
東京電力グループの発送電分離

電力の事業は、大きく「発電」「送配電」「小売」の3つに分けられます。

かつて日本国内では、これらを一社が独占することが許されていました。⇒小売電気事業者の解説

しかし多様化が求められる時代になるに連れ、電力事業においても独占状態に疑問が持たれるようになり、段階的に自由化が進められます。

発電と小売が順次自由化される
まず1995年に発電事業において自由化が解禁されます。
そして小売事業も2000年から順次自由化が進められ、2016年に低圧電力が自由化されたことにより、全面的に自由化されるに至ります。

自由化と同時に進められたのが発送電分離です。

発送電分離とは、「発電」と「送電(送配電)」を分離するという意味です。

つまり発電事業と送配電事業は、別々の会社が行わなければならないということが義務付けられたのです。

一般送配電事業者は、小売電気事業、発電事業(小売電気事業の用に供するための電気を発電するものに限る。第百十七条の二第四号において同じ。)又は特定卸供給事業(小売電気事業の用に供するための電気を供給するものに限る。同号において同じ。)を営んではならない。

電気事業法 第二十二条二項

現在では、電気事業法により、一般送配電事業者が発電事業や小売事業を行うことが禁止されています。

発送電分離されている理由
これは送配電(独占)を行う会社が、発電や小売(自由化されている)も行うことを許すと、「自社の発電や小売に有利な仕組みにする」など、特定の相手のみを優遇してしまうことを防ぐための措置です。

つまり大手電力会社10社ではない発電や新電力事業者が、公平に電力事業を営むことができるように発送電分離されているのです。